モジュラーシンセを始めよう 2025〜仕組み編
Clockface Modularでは2014年のオープン以来、モジュラーシンセ専門店として日本、海外の多くのお客様のモジュラーライフをサポートしてきました。この記事では"モジュラーシンセを始めよう 2025"として、モジュラーシンセの仕組み、ケースや電源の使い方からセットアップの方法、制作環境への取り入れ方、そしておすすめのセットアップについてご紹介します!
記事は2回に分けてアップします!今回は「仕組み編」、次回が「セットアップ編」になります
モジュラーシンセとは?
モジュラーシンセとは、それぞれが異なる機能を担うモジュールを複数自由に組み合わせて構成し使うタイプのシンセサイザーです。各モジュールは例えば音を出す、音を加工する、後述するコントロール信号を作るなどの機能を持ち、パッチケーブルで自分の好きなようにつなぐことで、ユニークな音作りや複雑なシステムを作ることができます。
モジュラーシンセでは、様々なパラメータを電圧でコントロールすることができ、コントロールする為の電圧はコントロールボルテージ(CV)と呼ばれます。また音も同じく電圧の変化としてケーブルを伝わるので、音とコントロール信号の境界が曖昧で実験的な音作りがやりやすく、高い柔軟性が特徴になっています。モジュラー"シンセ"と呼ばれていますが、使うモジュールによりシンセに留まらない、様々なシステムを作ることができます。例えば:
- モノシンセをさらに細かく分解した最小の構成要素からなるオリジナルアナログシンセ
- 独自のエフェクトシステム(グラニュラーetcも含む)
- ドラムから上モノまで、全てをモジュラーで賄う自分だけのテクノシステム
- 外部環境音を取り込んだフィールドレコーディングシステム
- 徐々に移り変わる自動演奏アンビエントマシン
- 4つのスピーカーへの音の配置のコントロールや自動化を行うクアドラフォニックシステム
などが挙げられます。
最近はMIDI対応のモジュールも増えましたが、モジュラーシンセならではの柔軟性はCVを使ってこそと言えるでしょう。
コントロールボルテージ(CV)
コントロールボルテージ(CV)とは、ノブの代わりに、同じパラメータを電圧でコントロールする為の電圧です。モジュラーシンセでは、様々なパラメータを電圧でコントロールし、自動化することで様々な音色や音の動きを作ります。
例えばLFOモジュールからは時間と共に上がって下がって・・・を繰り返す電圧が出力されていますが、それを他のモジュールのどのジャックに入力するかによって、LFOでコントロールするパラメータが決まります。例えばフィルターモジュールであればカットオフ周波数用のCV入力があるので、そこに電圧をパッチすることで、手動でなくてもカットオフ周波数をLFOの電圧に応じて変化させることができます。LFOをもし音源の音程コントロール用のジャックにパッチした場合には、ヴィブラートのように音源の音程が上がったり下がったりします。
CVが具体的にパラメータへどのように影響を与えるかというと、ジャックにプラスの電圧が入ると現在のつまみの位置より高い位置へ、0Vだとつまみの位置のまま、0Vより低いマイナスの電圧が入るとつまみの位置より低い位置へ、実際のカットオフ周波数が設定されます。CVとしてLFO電圧を使うと、電圧はマイナス→プラス→マイナスの往復を繰り返すことで、カットオフも周期的に変化します。その様子を模式的に表したのが次の図です。


アッテネーター
上のパッチでモジュレーションに使うLFOは、-5Vから5Vまでを動く電圧です。これをそのままカットオフのモジュレーションに使う場合、モジュレーションが強すぎてしまうことがあります。このためLFOの大きさを調整できるよう、入力信号を減衰させて出力するモジュールがあり、アッテネーターと呼ばれます。またモジュレーションの±を反転させる機能も追加されているものはアッテヌバーターと呼ばれます。アッテネーターは単体のモジュールも存在しますが、上記のパッチの場合、モジュレーションを受けるHikari Ping Filterにアッテヌバータースライダーが搭載されており、画像の白ポチでスライダーの位置を示しています。
メーカーやモジュールによりあまりアッテネーターを搭載していないものもありますので、そのようなモジュールが多い場合には、あとで別途アッテネーターが欲しくなることがあります。セットアップはスペースに余裕を持って考えた方が良いでしょう。
ゲート信号
ゲート信号はキーボードやシーケンサーモジュールから、発音のタイミングやサステインの長さをコントロールするために出力されることが多いです。

ゲート信号。ON/OFFとして使う。
またLFOの矩形波も電圧の形が同じなので、一定のタイミングで出力されるゲート信号(クロックと呼ばれます)として使うことができます。このように電圧として同じであれば、別のモジュールでも同じ役割を果たすことができるのもモジュラーの特徴です。

LFOやVCOのパルス波もON/OFFの繰り返しなので、定期的に発生するゲート(クロックといいます)として使えることが多い
ここまではLFOとゲート信号、クロック信号などの電圧をお見せしましたが、他にもモジュラーシンセでは様々なコントロール電圧の形状を作ることができます。

CVの一種であるエンベロープ。これをVCAにパッチすれば音量の変化をこの形で変化させることができます。

一定の時間間隔でランダムな電圧に変化し、次のタイミングまでその電圧をキープするランダム電圧。このような階段上でなく、連続的にゆらゆら変化する場合でもランダム電圧と呼ばれます。
音源をコントローラーで鳴らす
ここでは、鍵盤などのコントローラーを使ってCVを送り、モノシンセやサンプラーなどの音源を鳴らす場合を考え、コントローラーとモノシンセにどのようなものを用いたら良いかを解説します。
MIDIノートとCV/ゲートとの対応
モジュラーではないシンセを外部から鳴らす場合には、MIDIノートをシンセサイザーに送ることが一般的です。MIDIノートは
- ノートON/OFF
- 音程
- ベロシティ
などの要素で構成されています。中でも一番重要な音程とノートON/OFF情報に対応したコントロール電圧を作れば、MIDIノートのように使えるCV信号ができるはずです。MIDIと違いCVでは1本のケーブルで一つのコントロール信号しか送れないので、音程とノートON/OFFそれぞれに対応したパッチが必要です。
ノートON/OFFは簡単で、ゲート信号のON/OFFで表せば良いでしょう。それでは音程のCVはどうなるでしょうか?
音程は音源の周波数の高さなので、それを電圧でコントロールするために、モジュラーでは音源となるVCOやシンセボイス、サンプラーなどには必ず周波数コントロール用のジャックがついていますが、入力電圧を連続的に変化させると周波数も連続的に変化し、12音階の間の周波数でも鳴らすことができてしまいます。音階を気にしない音作りであればそれでも良いですが、周波数が決まった音階の値しか取らないという状況も必要になるはずです。
周波数がちょうど12音階に一致するためには、入力される電圧がどのくらいの大きさだとどのくらい周波数が変化するかが規格化され、その上で入力電圧がその規格での各音階に対応した飛び飛びの値になっている必要があります。
ユーロラックにおける実際の周波数CV入力の規格は、入力電圧が1V高くなると1オクターブ高くなる(周波数が2倍になる)というもので、このタイプの入力を1V/Oct入力と呼びます。コントローラーとして鍵盤モジュールなどを使っている場合、その規格に合わせ1オクターブ上の鍵盤を鳴らすとピッチCVが1V上昇(半音上で1/12V)するように設計されています。つまり、音階に合わせて周波数CVを出すには、出力CVを各鍵盤に対応した飛び飛びの電圧に寄せる必要があります。このようにCVを指定した音階に寄せる機能をクォンタイザーといい、鍵盤やシーケンサーモジュールに内蔵されていたり、専用のクォンタイザーモジュールを使うことで音程に合わせることができます。
※クォンタイザーはモジュラーシンセの自動演奏を行う際にも役立つ機能で、外部のクォンタイザーを使用することで、シーケンサーや鍵盤でなくてもLFOやランダム電圧からメロディに対応するピッチCVを生成し続けることができます。発展的な内容ですが、LFOとクォンタイザーを使用した自動演奏パッチの基本についてはこちらの記事も参考にしてください
音源をコントロールするゲート電圧、ピッチCVの変化例としては典型的に次のようなものになります。上がゲート電圧、下がピッチCVです。音のリリース途中で音程が変化しないよう、ゲートONになる瞬間にピッチが変化し、次のゲートが入力されるまでその電圧が保たれます。

様々なコントローラー
このように、CVでシンセをコントロールするためには、最低限、上のようなピッチCVとゲート信号を送る必要があります。モジュラーでのピッチCV/ゲートの送信元は次のようなものが代表的です。
- シーケンサーモジュール: ステップごとにピッチCVとゲートON/OFFをプログラムできるCV/ゲートシーケンサー。クォンタイザーが含まれるかは機種により異なります
- 鍵盤モジュール: 押した鍵盤やタッチプレートに応じて対応したピッチCVとゲートを出力する。
- MIDIをCVとゲートに変換するモジュール: MIDI to CVモジュールです。シンプルなものから様々なCcまで変換できたり、ポリフォニックを処理できるものもあります。純粋なアナログモジュラーでポリフォニーシンセを作るのは多数のCV/Gate入力をポリフォニーに対応した形で動かさなければならず難易度が高いです。ポリフォニーをしたい場合には、MIDIを正しいボイスアロケーションでCV/Gateに変換するMIDI to CV変換モジュールを選んでお使いください
- スタンドアロン鍵盤: Arturia Keystepなど、ピッチCVとゲート出力がついたもの
音源側の設定
次はピッチCVとゲートの信号を受けて音を鳴らす側のモジュールの構成について考えます。サンプラーモジュールであれば音をトリガーするゲート入力と、音程をコントロールするV/Oct入力がサンプラー単体に搭載されているのが一般的なのに対し、モジュラーでのモノシンセの場合は、シンセ単体モジュールではなく、さらに細かくした最小構成要素から組み上げることも普通に行われています。その場合、
- VCO
- VCA
- エンベロープ
の3つがあればそのようなボイスを構築できます。これらVCO,VCA,エンベロープを用いてシンセボイスを構成する具体的なパッチの方法については、以前に書いたブログ記事、"Control Voltage(CV)とは?"をご覧ください。
このような最小構成要素からシンセを作るのが従来のモジュラーの基本ではあるのですが、VCAの動作を理解するのが少し難しい、またピッチCVはVCO、ゲート信号はエンベロープと2つの信号を別々のモジュールに送る必要があるあたりが多少面倒に感じる人もいるかもしれません。
実はモジュラーシンセの中でも、各機能を最小まで分解し、一つ一つモジュールを選んでいくやり方もあれば、モジュール一つで通常のシンセボイス(上のVCO/VCA/エンベロープが全て搭載されたもの)になるものもあります。このようなボイスモジュールではサンプラーと同様、1モジュールでピッチCVとゲートを受けられるため分かりやすく、使用スペースやパッチングを減らすこともできます。そのため、「細かいパッチングよりすぐプレイしたい!」「エフェクトだけこだわって、とりあえず音源のボイスは便利で標準的なものならなんでもいい!」といった使い方もできます。ALM Busy MCOやMichigan Synth Works Beehiveがボイスモジュールになります。
またセミモジュラーというタイプのモジュールもあり、これは追加のパッチングなしでもシンセとして使え、同じモジュールに搭載されている個別の入出力を使ってさらに音作りを深めていくこともできる、というタイプです。例えば、Intellijel Designs Atlantixがセミモジュラーシンセです。単純なシンセボイスモジュールより入出力がフルモジュラー並みに充実していて実験的なパッチもできる点が特徴です。
自分のやりたいことに合わせ、複雑すぎたりコストがかかりすぎる部分については、上記のような一体型モジュールやMIDIデバイスもうまく取り入れながらセットアップを考えていくのも良いでしょう。
音源側のピッチ設定について
音階だけを鳴らしたい場合、コントローラーの出力するピッチCVは1V/Octで各音階に対応する電圧を出力する必要がありますが、音源側の周波数ノブについてもキチンと設定しないと正しい音階となりません。音源側の周波数ノブは、1V/OctへのCVがちょうど0Vの時にCが鳴るようにしておけば、1V/Octへ1Vが入力されれば1オクターブ上のC、1/12Vが入力されればC#が鳴る、というように正しく音階を鳴らすことができます。
このようにノブで最初の音程を設定することをモジュラーにおいてはチューニングと言います。デジタルモジュールの場合は最初の音程がCなど固定されていてチューニング不要のものもあります。チューニングについてはキチンとピッチを合わせようとすると多少時間も使いますので、回避したい場合はそのようなチューニング不要なモジュールを使うのもお勧めです。
一方、音源側のV/Oct入力に1V入れた時に1オクターブ上がるように調整することをカリブレーション(校正)と呼びます。メーカー品の新品モジュールはカリブレーションされているのでユーザーが行う必要はありません。アナログのカリブレーションは基板上のトリマーを調整しますが、難易度が高いことが多いので気軽に触らないようにしましょう。
ここではモジュラーシンセの導入と、その基本であるコントロール電圧の解説を行いました。次回はいよいよセットアップの構築について解説します!



