サンプル&ホールドでシーケンスを作る
サンプル&ホールドとは?
普通CV/Gateの世界で、「ピッチのシーケンスを作る」というと、スライダーやつまみでステップごとに音階を編集していく、"ステップシーケンサー"がまず思いつきますね。もちろんステップごとに正確に音階を編集でき、ゲート長やグライドなどの設定が細かいものやメモリー機能もあったりしてとても便利です。
ですが、モジュラーの世界では、他のやり方でもこのようなシーケンスを作ることができます。その1つが"サンプル&ホールド"や"クォンタイザー"を使ったやり方です。サンプル&ホールドは、トリガーとシグナルの2つの入力を受けて、階段状の信号を出力する機能です。トリガー入力を受けた瞬間に、もう一つの入力信号の電圧値をキャッチし(Sample)、次にトリガー信号がやってくるまで、出力からその値のCVを保っている(Hold)ような機能/モジュールです。
上のオシロスコープの画像では、赤がサンプル&ホールドへの入力シグナルです。黄色い線はこちらで書き込んだものですが、サンプル&ホールドに送られるトリガー入力です。トリガーのタイミングで赤い線がサンプルされ、緑の線となって出力されています。このような階段状の電圧を作るのがサンプル&ホールドの仕事です。CVシーケンサーも階段状の電圧を作るものなので、サンプル&ホールドで似た効果が得られるわけです。サンプル&ホールドモジュールも色々ありますが、動画ではMutable InstrumentsのKinksを使用しています。またランダムモジュールも、ノイズをサンプル&ホールドするのが基本です。Qu-bitのNano Randもサンプル&ホールドとランダムが同時に使えてお勧めです。
これで階段状の電圧は出るようになりましたが、この電圧は12音階に対応したピッチCVにはなっていません。そこでクォンタイザーを通し、音階にしています。動画ではuScale IIを使っていますが、現在の音階がLEDで一目でわかるので便利ですね。またToppobrilloのQuantimatorや、新しいTiptopのQuantiZerなどには、サンプル&ホールド機能が内蔵されています。それだけクォンタイザーとは切っても切れない関係ということですね!
また、サンプル&ホールドへの入力シグナルを作る為に、今回は次の3つのモジュールを使用しました。
・Rebel Technology Stoicheia・・・サンプル&ホールドのトリガー入力を作るための2チャンネルゲートシーケンサーです。つまみでリズムをコントロールできるので、ピッチが変わるタイミングを柔軟にコントロールできます。ユークリッドアルゴリズムという仕組みでリズムを出すので、出てくるシーケンスもクロックほど「機械感」がないところがポイントです。動画後半では、もう片方のチャンネルでエンベロープへのゲートシーケンスも作っています
・4ms Pingable Envelope Generator(PEG)・・・サンプル&ホールドされる入力電圧を作ります。今回は、PEGをサイクルさせて、クロックに同期したLFOとして使用しています。PEGはCurveやSkewコントロールにより、LFOのスピードを変えずに形を細かく調整できるので、そこをモジュレーションするとシーケンスの長さは変わらずにフレーズを微妙に変化させたりできます。動画ではOR出力を使ったり、セルフパッチでゆっくり変化するLFOを作ったりもしています
・Mutable Instruments Shades・・・PEGでできたLFOをアッテネートや反転、オフセット電圧を加えています。アッテネートすれば、シーケンスの動くピッチの範囲をコントロールできますし、オフセットすることで、シーケンスの音程をスケールに従ったまま全体的に高くできます。(PEG自体にもアッテヌバータがついていますが、今回はあえてShadesのアッテヌバータを使っています)。またクォンタイザーやオシレーターの1V/Oct入力は、プラスの電圧のみを受ける場合が多いので、LFOがプラスマイナスの電圧範囲で動く場合は、ShadesなどでLFOの動く範囲をプラスに持ち上げてください。
ここで何を使うかで、出せるシーケンスは色々変わってくるでしょう。もちろんトリガーを作るためにはシンプルなクロックなどを使っても良いと思います。今回はより柔軟なリズムを出すためStoicheiaを使いました。StoicheiaとPEGはクロックをシェアしておくことでループ的なシーケンスが作れます。
これらのモジュールを使って、ピッチシーケンスを作っているのが上の動画です。シーケンサーとは違って、ステップごとの細かい調整などはできませんが、動きのあるフレーズや、広いオクターブ範囲に渡るようなシーケンスを作るのが得意です。即興力も高いですね。
発音タイミングとの関係
さて、ここまではオシレーターのピッチシーケンスのことだけ考えていましたが、もちろん現実ではエンベロープやVCAも合わせて使うことが多いでしょう。シーケンサーでもピッチCVとエンベロープ用ゲートはセットで設定することが多いですよね。動画でも7'30''以降くらいからエンベロープやVCAを使いだしています。では発音タイミングを決めるゲートには何を使うのが良いのでしょうか?例えば、サンプル&ホールドのトリガー入力に使っているゲートシーケンスでそのままエンベロープを立ち上げることもできます。上の動画で、Stoicheiaが"チェーンモード"の時は、1つのゲートシーケンスでサンプル&ホールドのトリガーとエンベロープの立ち上げの両方を行っています。
また、サンプル&ホールドのトリガーとは別のゲートシーケンスでエンベロープを立ち上げることもできます。上の動画では、チェーンモードでないStoicheiaで左右のチャンネルからは独立した別々のゲートシーケンスを出しています。この時は、発音タイミングとピッチ切り替えタイミングが独立なので、さらに自由度の高いリズム&ピッチの組み合わせが可能です。ですが、この場合ちょっと注意が必要なのは、エンベロープが長いディケイの時など、音の途中でサンプル&ホールドが新しく起きてピッチが変わることがあるということです。上の動画ではディケイが短いので分かりずらいですが、音の途中で音程が変わっていることがあります。これを「味」ととらえても良いですし、レガートには向いています。
ディケイの途中での音程変化が嫌な場合は、サンプル&ホールドと同じタイミングで発音するか、発音タイミング用のゲートシーケンスをMultipleなどでクロックディバイダーなどに通し、いくつか「間引いた」ゲートシーケンスをサンプル&ホールドのトリガー入力に使ってください。こうすればサンプル&ホールドが起きる時、必ず発音がスタートすることになります。
TIPS
細かな素材からシーケンスを作るのは一見ややっこしいですが、メリットもたくさんあります。やり方をどんどんカスタマイズしたり、他の音と相互作用させたりするようなパッチが組めます。クォンタイザーからのピッチシグナルをスルーリミッターに通せば、グライドをかけることもできます。またLFOにランダムを混ぜたりするのも良いでしょう。 またシーケンスを作るために使用したLFOなどを、音の他の要素のモジュレーションなどに使えば、ピッチの動きに連動して他の音の音色が変わるようなパッチもできますね。
とても広がりがあるパッチなので、是非色々試してみてください!